革靴を長く履き続けるにはどうすれば良いか。長年、革靴の製造、販売、修理に携わってきた経験から解説したいと思います。
長く履き続けるためのサイズ選び
私が革靴を販売していてよく思うのが、お客様がご自分の足のサイズを正確に知らないことが多いということ。その理由として考えられるのが、スニーカー文化だと思います。27センチのスニーカーを履いてお店に来店されたお客様の足を実際に測ったら、実際は25センチしかなかったと言うことはよくあります。
自分の正確な足のサイズと合わない靴を履いてしまうと、靴の様々なパーツの消耗が激しくなり、長持ちさせることが難しくなってしまいます。
足のサイズより大きい靴を履くと、歩いた時に靴の中で足が動いてしまいます。そうすると、靴と足の摩擦によって内側の革が摩耗し、穴が空きやすくなってしまうのです。
逆に足のサイズより小さい靴を履いてしまうと、足の屈曲位置と靴の屈曲位置が合わないため、足、靴、共に負担が掛かり、型崩れしてカンヌキ等の部分が壊れやすくなってしまいます。
そのため自分の足のサイズを知ること、そして正しいサイズの靴を履くことが、靴を長く履く上で最も大切なのです。
正しい足のサイズの簡単な測り方
では自分の足をどうやって測れば、正しいサイズを導き出すことができるのでしょうか。
基本的にビスポーク(フルオーダー)でない既成靴ならば足長(かかと ~ つま先)、足囲を測れば大体の目安になります。メーカーによってサイズに違いがあるため、あくまでも目安として考えてください。
まず足長の測り方です。踵を壁や箱をつけて、踵から指先で一番出ている所までの距離が足長になります。なるべく立った状態で他の人に測ってもらった方が正確に測れます。次に足囲ですが、親指の第一関節と小指の第一関節を通る足の周囲の距離が足囲になります。
ここで注意したい点があります。測る時には、普段履いている靴下を履いて測ってください。靴下の厚みで多少は足長、足囲が変わってしまうからです。
人の足は基本的に左右で大きさが違いますが、靴はビスポークでもない限り左右同じサイズで販売しているため、大きい方の足に合わせてサイズを選んでいきます。ご自分のサイズを確認したらそのサイズの靴を実際に履いて、可能なら少し歩いて靴を選んでいきます。
ここでも注意したいのが「普段緩い靴を履いていると、自分の足に合った靴を履いた時にきつく窮屈に感じてしまうこと」です。窮屈に感じても痛くない程度のフィット感なら問題ないのです。
試履きのときに注意することは
- 靴紐をしっかり結んだ状態での痛くない程度のフィット感
- 歩行時の踵の浮きがないか
- 歩行時に指先が靴に当たらないかどうか
これら注意点を踏まえたうえで靴を選べば、靴を長く履く手助けになると思います。
長く履き続けるための革靴の履き方
次に革靴を長持ちさせるための「正しい革靴の履き方」についてです。まず靴を履く時には必ず靴下を履くようにしましょう。ライニング(裏革)、革中底ならばスニーカー等の布等より吸水性は良いと言われていますが、それでも限界があります。
水を吸い過ぎると革が柔らかくなり過ぎ、型崩れの原因にもなりますし、菌も繁殖しやすくなります。そうすると靴も臭くなりやすいですし、カビが生えやすくなります。なので革靴を履く時は必ず靴下を履いて頂きたいでです。
次に靴に足を入れる時にはしっかりと紐を緩め、出来ればシューホーン(靴ベラ)で足を入れて下さい。シューホーンを使わず足入れを行うと踵部分のステッチが切れたり、踵のライニング(スベリ部)が切れたりしやすくなります。この二つはアッパー(甲革)修理で一番多い修理箇所になります。
さらに無理矢理に脱ぎ履きしていると踵の芯のカウンター(月型)が柔らかくなったり折れてしまいます。そうすると簡単に修理出来なくなってしまいますので、出来ればシューホーンを使って靴を履いて頂きたいです。
次に足を入れたらしっかり紐を結んで下さい。
紐を緩んだ状態で履くと足が靴の中で動くため、裏革と足がすれて切れたり、摩擦で汗をかきやすくなります。
紐を結ぶ時は、靴の踵部にしっかり踵をつけて痛くない程度にきつく締めて下さい。これだけで歩行時の疲れも軽減されます。
そして一番大切なことが「革靴は毎日同じ靴を履かないこと」です。最低でも履いた日から2日間は間を空けてしっかり湿気を取って下さい。
毎日同じ靴を履いてしまうと汗の湿気が乾き切らない内にまた履くことになるので、カビや菌が繁殖しやすくなってしまいます。なので革靴は最低でも3足をローテーションで履くことをお勧めします。
革靴を長く履き続けるためのメンテナンス方法
最後に革のメンテナンス方法について解説します。
ここでご説明するのは一般的に紳士靴で使われているスムースレザーのメンテナンス方法についてです。スエードやオイルレザーは、手入れの仕方が変わってきますのでご注意下さい。
※下記で紹介する内容はメンテナンスについてページで紹介しています。
- まず最初に前から後へとブラシをかけて全体の汚れを落とします。縫い目やシワ、甲革とコバの境目等の細かいところも入念に。また意外と目立ちやすいヒール部分も、しっかりとブラッシングしましょう。
- 次にクリーナーをウェスにとり、全体に薄く伸ばすように塗ってください。あまり多量に塗ったり、直接、靴に塗ると、シミ等を作る原因となるので注意してください。汚れと一緒に汗や古いクリームも落とすので通気性が良くなります。
- 次に革に栄養補給をしていきます。クリーナーと同様に同系色のシューラスタークリームやシュークリームを薄く伸ばしながらムラなく塗ります。このクリームは、革に潤いを与え、ひび割れを防ぐとともに美しい光沢を出します。
- 全体にクリームを塗ったら靴の表面をブラッシングして余分なクリームを落とします。その後、ウェスで軽く磨いてください。次第に光沢が出てきます。コバ等の細かいところや、ベロ(舌革)の部分も忘れずに。
- さらに光沢を出したい部分には、シューポリッシュをウェスに少量とって、小さな円を描くように薄く伸ばしてください。ここで水をほんの一滴落として、ゆっくりと水を広げるように磨くと、より美しい光沢が出せます。
- もう一度、全体を丹念に磨いてください。ナイロンストッキング等で磨くといっそう光沢が増します。
ここで注意して頂きたいのが光沢を靴全体に出してしまうことです。光沢が出る理由は、シューポリッシュに入っている蝋で革の表面の毛穴の凹凸をなくし平にしているためです。
全体が光るということは蝋で革の表面を固めていることになるので、革が呼吸出来なくなるだけでなく屈曲する部分の蝋が割れてヒビが入ったようになってしまいます。なので光沢を出すのは「つま先部分と踵部分の屈曲しない所」に行って下さい。 - 最後に、汚れの付着を防ぎ、撥水効果のある撥水スプレーを掛けます。仕上げにシューツリーを入れて靴を休ませましょう。木製のシューツリーは湿気をよく吸収し、型くずれを防いで靴を長持ちさせます。
以上のことに注意してしっかりメンテナンスを行い、正しく履けば10年以上履き続けることも可能になります。愛情を込めてメンテナンスすれば靴もそれに応えてくれます。是非実践してみて下さい。